イタリアの赤もり(そば) 粋といなせを考える 黒森庵 永福町
松本からチーズのお姉さん、ジュレ・ブランシュの霜田さんが研修の為にやってきました。
この日は我が社の皆さん一様に手が空いていて、うってつけの昼酒日和。
この機会にシュバリエ(フランスチーズ鑑評騎士の会の称号です)の霜田さんに黒森庵のチーズ盛り蕎麦を食べてもらう事にしました。
まず、肴をつまみながら ひ・る・ざ・け。
肴は和の三点盛りと洋の三点盛り。
酒は房島屋、四季桜、七田、等々。
昼間っから飲みながら松本の情報収集。
まだ内緒ですがあるイベントを計画してたりするので霜ちゃん情報は重要です。
この日の狙いはイタリアの赤もり(蕎麦)。
前回に来た時には無かったメニューです。
(参照:2007/12/16 ご褒美はパルミジャーノ蕎麦 黒森庵 永福町)
トマトベースの蕎麦つゆにパンチェッタ(ジローラモではありません。豚バラ肉。塩漬けにしたりします)が入っているようです。
そこに少し蕎麦を入れ、上からパルミジャーノを降りかけて頂きます。
なるほど、これは美味しい。
パンチェッタの塩けと蕎麦のほのかな甘みが良く合います。
ちょっと残念なのは、こーなると蕎麦の香りが楽しめないこと。
でも変わり蕎麦ですからね、それで良いと思います。
イタリアといえばフェラーリの赤とサッカー代表の青。
ワタシ blue et rouge 的にはイタリアの青もりも作って頂きたい、と。
ジュレさんにはイタリアのもり(蕎麦)を食べて頂きました。
「美味しいけど、少し蕎麦が可哀想」と。
さすがチーズと同じくらい蕎麦を愛する信州人です。
黒森庵の師匠の翁 高橋氏が本格的な『粋』の蕎麦なら、黒森庵の蕎麦は遊び心の『いなせ』かな。
『いなせ』って辞書をみると『江戸時代に魚河岸の若者が鯔背銀杏に髪を結ってたことから』なんて書いてありますよね。
鯔(いな)はボラの子供で背びれが曲がっているそう。
そのちょっと曲がった鯔背銀杏の髪型が恰好良く『粋』な様が『いなせ』だと。『粋』=『いなせ』という捉え方です。
でも、これには異論があったりします。
ワタシが聞いた知恵者の話しでは、横に受け流す『いなし』が転じて『いなせ』になったそう。
『いなせ』は『鯔背』と『いなし』のダブルミーニングなんだそうです。
伝統などの縦の流れが『粋』なら、遊びを加えるのは『いなせ(いなし)』
『粋』と『いなせ(いなし)』は『縦』と『横』の別の意味があるというワケです。
『粋』≠『いなせ』という捉え方。
その話しの方が辞書より面白いので採用。以来、ワタシは『粋』と『いなせ』を使い分けています。
もちろん通常のもり蕎麦は翁ゆずりの角がそろった本格派。
ワタシ的には『粋』な蕎麦です。
パルミジャーノを使った変わり蕎麦は『粋』な主人の『いなし』と思ってたりします。
そんな理屈っぽいことを考えながら昼食を楽しんでいました。
偶然、近所の酒店に連れられて長野県内の某蔵さんがやって来ました。ジュレさんで扱っている酒の蔵の方です。
長野ではなく永福町で、しかも蕎麦屋でご対面です。
美味しい人同士ってつながるもんですね。
そんなこんなで結構長居。
ここで黒森庵ご主人から「試して下さい」と1杯の酒を頂きました。
「なんです?」って聞いたら「宗玄です」と。
先日、マルセウ本間商店で「先代の杜氏が体調を崩し造りが出来なくなってしまった。杜氏が若い人に替わったので、見極めているところ」と言われ購入出来なかった酒が『宗玄』でした。
(参照:2008/02/04 マルセウ本間商店で気がついた)
「杜氏が替わったところでは?」と聞いたら、
「そうなんですよ。若い人が頑張っているので」と、微笑みました。
なんだか、黒森庵のご主人の言葉に嬉しくなりました。
久しぶりに『旦那』と言う言葉にピッタリな人に会ったからです。
ワタシが社会人になった頃には『旦那』と呼べる人がまだいました。
少しの落ち度には目をつぶって「しっかりお稼ぎ」と気持ちよく支払ってくれた人です。
人を育てるってそんな事だと思います。
霞を食べては生きられないのです。
お金が無ければ何も育たないですもん。
買うことこそ、何よりの応援です。
ちょっと前まで、人を一人前に育てる懐の深い『旦那』さんがいたんです。
最近の支払う立場にいる人は些細な落ち度の粗探しばかり。
『金を払うのだから当然の権利』とばかりに人格まで否定します。
もちろん本間商店が新しい杜氏の粗探しをしていると言っているワケではありません。
本間商店の言う『見極める』は、酒を熟成させてちょうど良い状態になる『飲み頃』を探っているという事と勝手に思っています。酒を熟成させてから冷蔵庫に並べる、こだわりの酒屋ですもん。
少ししか飲んでないけど、新しい杜氏の造った酒は先代の酒とは少し違う気がします。
先代の宗玄は奥まったところに酸が有り、抑えの聞いた深く甘い酒という印象でした。
今回飲んだ宗玄はやはり甘みも旨味も強いのですが、香りが華やかで若い印象でした。
きっと熟成させたら先代の杜氏と似た味の酒になるような気がします。
でも、工業製品ではないのだから同じ酒を造る必要はありませんよね。新しい味を造れば良いのです。
ワタシたちが新しい杜氏の新しい酒を昔の『旦那』のような大らかな気持ちで受け入れれば良いのです。
やがて、その人なりの『いなし』が『粋』になるでしょう。
イタリアの赤もりを食べながら、図らずも『粋』と『いなせ』を考える事になってしまった昼酒でした。
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コメント
おお、さすがなコメント。
粋といなせ、面白いですね。
蕎麦について訊ねられたとき、香りの点をどう評価されるかがやはり気がかりでした。
ある意味、食べ手の感性にゆだねられた蕎麦ですので、それをどうお伝えしようかな…と悩み、あまり触れずにおきましたが★
先日、食べに行ったばかりなのに、また伺いたくなりました♪
TBありがとうございました。私もさせていただきますね。
投稿: カンザワユミコ | 2008/03/14 13:42
カンザワさん、コメントありがとうございます。
蕎麦の香りは喉を通る一瞬に鼻腔で感じる繊細なものですもんね。蕎麦より強い香りの中では感じ辛くなってしまいます。
赤もりは香りより甘み。パンチェッタが蕎麦をより甘く感じさせる対比の面白さを楽しむのが良いような気がします。
投稿: bleu et rouge | 2008/03/14 14:42
初めまして。なんとなくここにたどり着きました。
宗玄は、杜氏が変わったのは体調が理由では無く
社長ともめたからで、しかも若い杜氏になったので無く
ベテランの元々宗玄で杜氏をやられていた年配の
杜氏になったのです。
投稿: ふぐ | 2008/03/15 06:27
ふぐさん、初めまして。情報ありがとうございます。
ワタシが聞いた話しはかなり修飾された話しになっているようですね。酒屋と蕎麦屋、異なる2店で同じ話しを聞いたので鵜呑みにしました。どこかの誰かが耳障りの良い話しにアレンジしたのでしょうか。
また、面白い話しが有りましたらよろしくお願いします。
投稿: bleu et rouge | 2008/03/15 07:47
美味しいお店ご案内有難う御座いました
いい刺激を頂きました
しかし飲んだねー
昼酒は最高にいいです!
投稿: gelee | 2008/03/15 14:22
geleeさん、どーもです。
次回もまた違った企画を仕込んでおきます。
今後ともよろしくです。
そーいえば、藤小西のあのワイン売り切れました。
今度、他のワインを紹介します。
投稿: bleu et rouge | 2008/03/15 16:18